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東京地方裁判所 昭和60年(特わ)3191号 判決

本店所在地

東京都国立市東二丁目一三番地の二一

株式会社ヘルス

(右代表者代表取締役 古谷久)

本籍

埼玉県飯能市大字芦苅場七〇〇番地の三

住居

東京都三鷹市井口一九二番地

会社役員

古谷久

昭和一五年九月二五日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官櫻井浩出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

一  被告人株式会社ヘルスを罰金一六〇〇万円に、被告古谷久を懲役一〇月に処する。

二  被告人古谷久に対し、この裁判確定の日から二年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社ヘルス(以下「被告会社」という。)は、東京都国立東二丁目一三番地の二一に本店を置き、医療用機器の製造、販売等を目的とする資本金二九九九万八八〇〇円(昭和五九年四月一二日以前は、二〇〇〇万円、同五八年三月二二日以前は、五〇〇万円)の株式会社であり、被告人古谷久(以下「被告人」という。)は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を総括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企して、売上及び期末たな卸商品を除外するなどの方法により所得を秘匿した上、昭和五七年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得額が二億二九四二万九〇〇七円あった(別紙(1)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五八年二月二八日、東京都立川市高松二丁目二六番地一二号所在の所轄立川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が八九八一万一九四九円でこれに対する法人税額が三六七四万六四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告(昭和六一年押第一一三号の1)を提出し、そのまま法定納期期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額九五三八万五九〇〇円と右申告税額との差額五八六三万九五〇〇円(別紙(2)脱税額計算書参照)を免れたものである。

(証拠の標目)

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書

一  和田馨及び藤巻五郎の被告人の検察官に対する各供述調書

一  登記官作成の商業登記簿謄本

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  売上値引戻り高調査書

2  仕入高調査書

3  期末商品・製品棚卸高調査書

4  販売手数料調査書

5  消耗日調査書

6  運賃調査書

一  押収してある法人税確定申告書(昭和六一年押第一一三号の1)一袋

(法令の適用)

一  罰条

1  被告会社 法人税法一六四条一項、一五九条一、二項

2  被告人 法人税法一五九条一項

二  刑種の選択

被告人につき、懲役刑を選択

三  刑の執行猶予

被告人につき、刑法二五条一項

(量刑の事情)

本件は、医療用機器の製造、販売等を目的とする被告会社の代表取締役である被告人が、同会社の業務に関し、昭和五七年の事業度分の所得につき、製品である電位治療品の売上及び期末たな卸を除外し、法人税五八六三万円余をほ脱したというものであり、一事業年度のほ脱税額としては高額である上、ほ脱率も約六一パーセントと被告会社の事業内容を考えると高率である。被告会社は、昭和五三年に設立され、当初他社の代理店として他社が開発した電位治療器の販売をしていたが、昭和五六年一二月ころから被告人が開発した電位治療器「パワーヘルス」を販売するようになって業績が伸びていたものであり、被告人は、将来の業績不振に備えようと思ったこと、欠陥商品の存在が明らかとなり、修理、、回収の費用がかかること、多額の税金では資金繰りの関係で納めきれない状態にあったこと、などを本件の動機として述べるが、いずれも格別斟酌すべきものとは言えない。

しかし、本件は、被告会社の一事業年度分の法人税ほ脱の事案であり、他の事業年度においてほ脱を行っていた事情は窺われないところ、被告人は捜査、公判を通じて事実を認め今後の過ちなきことを誓っており、被告会社においては修正申告の上本税、延滞税、重加税等を納付していること、被告人には昭和四〇年に業務上過失傷害罪で罰金刑に処せられた前科があるのみであること等被告人にとって斟酌すべき事情もあるので、総合勘案の上被告人につきその刑の執行を猶予することとし、主文のとおり量刑する。(求刑被告会社につき罰金二〇〇〇万円、被告人につき懲役一〇月)

よって主文のとおり判決する。

(弁護人 伊藤卓藏)

(裁判官 石山容示)

別紙(1) 修正損益計算書

株式会社 ヘルス

自 昭和57年1月1日

至 昭和57年12月31日

〈省略〉

別紙(2) 脱税額計算書

株式会社 ヘルス (57.1.1~57.12.31)

〈省略〉

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